小旅行クラブ

ともしび文集

今年の夏、大地の芸術祭という新潟県越後妻有で開催されている芸術祭に足を運んだ。そこで出会った懐かしくて美しい感触について紹介したい。
 
大地の芸術祭では自然豊かな町内をドライブしながら色々な展示を巡ることができるのだが、その中でもOngoing Collectiveの作品「Ongoing Village~進行形の村~」で印象的な出会いがあった。
 
三省ハウスという築60年の小学校(現在は廃校)を展示スペースとして活用していて、入口の下駄箱に入った瞬間、無邪気に登校していた過去が蘇りどこか懐かしさを感じるところからスタートした。学校内を進むと体育館があり、そこにはすごろく形式のイタレーションがあった。
 
すごろくのイタレーション
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一コマ一コマ作者の人生を擬似的に歩んでいくと最後に冊子を自分でつくれるコーナーが設置されており、お土産としてそれを持ち帰ることができる仕組みになっていた。その場で中身はみなかったが、その時すでに三省ハウスで提供されている空間の虜になっていた僕は帰りの新幹線の楽しみとして大事に持ち帰った。
 
自作の冊子: ともしび文集
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前段が長くなってしまったが、そこで持ち帰ったお土産が「ともしび文集」だった。ページをめくると飯島美代さんが昭和62年〜平成15年の間に書かれた短編エッセイが9つ紹介されている。
 
冊子の最後のページには、新潟県上越市吉川区老人クラブ発行「ともしび文集」より 飯川美代 著 令和四年七月 片山真妃 印刷・発行と印刷されており、新潟県の老人クラブで飯島美代さんが書かれた随筆をOngoing Collectiveのメンバーである片山真妃さんが新たな作品の形として制作したものだと想像できた。
 
ここでは全てを紹介することはできないが、そのうちの一つを最後にご紹介したい。
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温め酒 飯島美代 忘れ得ぬ人 昭和六十二年  人間は誰でも、出会いと別れをくり返し、生きる者と思います。数多い出会いの中、忘れてはならない人、忘れられない人、忘れ得ぬ人があると思います。私は最近とても印象に残る方にお会いしました。  此の夏、五歳の孫が肺炎にかかり、長岡日赤病院に入院致し、私は十日間程昼間だけ、つきそいをする事になりました。もちろん夜は両親が代わってくれました。病院では、毎日毎食後、決まった時間に五十歳くらいの清掃員さんが、清掃用具を持って入って来られるのです。  最初に見た時、あまりにも小さい人で、私はおどろいてしまいました。子供がそのまま年を取った、何となく弱々しいそんな感じのする方でした。それでも一生懸命に一日中働く姿を見て、胸の痛む思いでした。もしかしたら幸せのうすい方ではないかしら?・・・等と勝手に想像して居りました。 そろそろ孫も元気になり、退院も間近くなったある日の夕方、孫の眠ったのを幸いに、談話室へテレビを見に行きました。私に続いて、例のおばさんが入って来られました。相変わらず雑巾を持って・・・。私は思わず声をかけました  「おばさんは、朝から此の時間になっても、まだ掃除をなさっていらっしゃるんですか」  「そうですよ。朝八時から夕方五時まで一日中、年間通じて掃除ばっかり。もう十年も続けています。」  私はびっくりして、とても恥ずかしくなりました。朝の一時の掃除をするだけでも、手ぬきをしている有様の私です。重ねてたずねました。「おばあさんは、御主人お元気なんですか」すると「私は子供一人出来て、間もなく主人が亡くなりました。それからは主人のお母さんが子守りをしながら、家事一切をやって下さるので、こうして働かせて頂けるのです」  此のように話しながらも、雑巾を持つ手は少しもやめず、戸のサン、テーブルの上、いす等せっせと働いておられます。  おばさんは尚「私はもう少しで停年です。今の仕事をやめたら、今度はお母さんに恩返しをさせてもらいます。一にもお母さん、二にもお母さん、お母さんを大切に、大事に一日でも長生きをして頂きたいと思っています。お母さんは今年八十歳、子供は大学に入学しました。せめて卒業まで、今の仕事をつづけさせてもらえたら・・・と思っているんですよ」と答えながら部屋を出ていかれました。私はおばあさんの後ろ姿を拝むように、自然に頭が下がりました。  何と美しい心の持ち主でしょう。最近では、お母さんと呼ぶ事さえ嫌う人が多いと聞くのに「お母さん、お母さん」の連発でした。  こんな心の通いあった家庭に育てられた息子さんも又さぞや此のおばあさん、お母さん同様、心の美しいあたたかい人に、成長される事と信じ、何時までも晴ればれとしたうれしい気分でおりました。
 
大地の芸術祭 Ongoing Village~進行形の村~
 
片山真妃さん
 
Art Center Ongoing
 
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